大阪に本社のある小林製薬が製造した紅麹を原料とするサプリメントが原因と考えられる、少なくとも5人以上の死者を含む多数の健康被害者を出した事件が、本年3月22日に発覚したことを皆さん憶えていることと思います。健康になるために食べた(服用した)食品で命を落とすとういう悲劇は、過去の歴史にもありました。今回の事件を通して食品とか食べることなどについて、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
食品とは、人が食べるために直接利用できる、食用可能な状態のものをいう。食品を調製や加工などして、食べられるようにしたものの総称は食物である。また、食品の携帯にすることができる材料を食料という。例えば、収穫した米(籾と表現したほうが)は食糧であるが、これを精米すれば食品となり、炊飯したものは他のものと合わせ食物と呼ぶことができる。ただ食物と呼ぶ範囲は、食糧・食品と比べ、あまりはっきりしていない(日本大百科事典第12巻、p226)
次に食品はどのように分類されるかというと、次の12もの種類にされます。
- 大別的[動物性・植物性・合成]
- 動植物上[穀類・主実類]
- 食品成分上
- 栄養学的[デンプン性・タンパク性・脂肪性]
- 健康上[健康食品(以下・食品は略)・栄養補助・保健・純正・自然・無農薬・特殊栄養・栄養強化・低エネルギー]
- 加工分類[生鮮・加工]
- 生産形態別[農産・畜産・水産・天然品・養殖]
- 食習慣上[主食類・副食類・嗜好品類・調味料類]
- 加工形態別
- 調製形態別
- 特殊目的上
- その他形態[コピー、ジャンクなど]
上記の分類で違和感を覚えるのは⑤健康食品です。私たちは食品=食べ物から栄養を摂取し、健康を維持しています。ですから、健康でない食品を摂取することなど考えられないわけで、何故に健康食品とうたわなければならないか、皆さん方は疑問に思いませんか。
- 何らかの健康効果を期待して経口摂取する製品を「健康食品」と称している。このようなものを「食品」の範疇に含めていいのか、疑問に思う。この種の製品には「健康期待摂取品」という呼称を与え、「健康食品」という用語は使用禁止にすべきであると、私は主張している。(高橋久仁子『フードファディズム』中央法規(2007)、p66)
- 健康食品とは明確な定義はないため、「いわゆる健康食品」「栄養補助食品」、あるいは「健康補助食品」と呼ばれる。健康食品のうち、医薬品を連想させる錠剤やカプセル、粉末状等の形態をした製品を「サプリメント」と呼び分ける人もいるが、区分はない。
“健康に良い食品”とは ―いわゆる紅麹事件が教えるもの―
医薬品から生活雑貨まで、暮らしに身近な商品を幅広く手掛ける小林製薬(大阪)の健康食品「紅麹コレステレプス」を摂取した人が腎臓の病気を発症し、死者5名、入院者延べ212名に上った記事は、私たちを大いに震撼させました。健康を維持・増進するための食品を摂取して、命を落とすなんてあまりにもひどすぎます。
そこで、今回のこの事件を通して皆さんと考えてみたいのは、「健康食品」とは何ぞやです。私たちは健康の維持・増進のために食品を摂取するわけですから、食品に敢えて健康を修飾しなくてはならないのか。
皆さんは「食品」についてどのようなイメージをお持ちでしょうか。大方の人はスーパーマーケットに並べてある野菜や魚・肉、惣菜などがパッと浮かぶのではないでしょうか。問題を起こした紅麹コレステレプスも健康という名の食品ですが、野菜や肉などと同列に考えられますか。紅麴コレステレプスはサプリメントと呼ばれ、形態は錠剤です。両者を食品として結びつけるには大いに問題ありと言わざるをえません。消費者を混乱に貶める以外何物でもありません。
それでは、サプリメントはなぜ食品として扱われるのか。食品衛生法によると、「食品とは全ての飲食物をいう。ただし、薬機法に規定する医薬品、医薬品部外品、再生医療統制品はこれを含まない」、とあります。つまり、医薬品など以外の経口物はすべて食品と扱っているところに問題の発端があるようです。
- 厚労省のホームページより:いわゆる「健康食品」と呼ばれるものについては法律上の定義はなく、医薬品以外で経口的に摂取される、健康の維持・増進に特別に役立つことをうたって販売されたり、そのようn効果を期待して摂られている食品全般を指し、①保健機能食品(ア、機能性表示食品、イ、栄養機能性食品、ウ、特別保健用食品)と②その他のいわゆる「健康食品」に分類されます。サプリメントはその他の「いわゆる健康食品」に属し、栄養成分を補給する食品であり、国の定義や制度化している食品ではなく、保健機能食品のような機能性は表示できません。きわめてグレーゾーンにある食品と言えます。
一般社団法人日本サプリメント協会が、本年4月に『サプリメント図鑑』を刊行しました。そこには次のような記載があります。そもそもサプリメントは栄養の足りないところを補う役目として登場したのですから、毎日の食事で栄養がしっかり足りていれば、取る必要などないのです。しかし、栄養素のバランスが偏って代謝がうまく働かず、イライラや気分の落ち込みなどを生じさせています。
また、バランスの良い献立を整えても、食材そのものの栄養価の低下も問題。例えば、ニンジン100g中のビタミンA含有量は50年前の8分の1にまで低下しているといわれている。化学肥料や農薬などによって土壌が痩せて、姿・形は立派だけど、栄養価の低いニンジンになってしまった。
一方、食の問題ばかりではなく、自然環境・生活環境・人間関係など、実に多面的なストレスにさらされている。ストレスは多くの活性酸素を生み、心身に様々な不調をもたらす。
以上のような状況を踏まえ、右図に示した「サプリメント・ツリー」を提示しています。木の根・幹・枝葉を例えて、それぞれ栄養欠損補充(ベース・サプリメント)、健康維持・増進(ヘルス・サプリメント)、改善目的(オプショナル・サプリメント)として、TPOに応じて利用することを勧めています。そして、最も大切なのは気を支えている土壌です。その基本となる4つの生活習慣―食事・睡眠・運動・休息―を常に見直すことを強調しています。健康とは安直では獲得できません。日々の地道な積み重ねが必要なようです。
(文責:斎藤一冶)