2026.3 日本の稲作を守る会 NPO法人民間稲作研究所便り
3月のお送りする有機栽培米コシヒカリは次の生産者です。
有機コシヒカリ白米・玄米 綿引克友さん(茨城県常陸太田市)
次回は4月4日(土)配送予定です。
御都合の悪い方ご連絡くだされば対応いたします。
「稲葉賞」を創設 田坂興亜氏が第1号の受賞者に
稲葉賞選考委員会実行委員長 古谷 慶一
「稲葉賞」創設の背景
- NPO法人民間稲作研究所は、1985年に稲葉光國氏を中心に設立された「成苗2本植研究会」が母体です。ですので、40年以上にもわたって活動していることになります。民間稲作研究所の取り組みは、機械化・化学化を主としたいわゆる近代農業の真っ只中で、逆風の中での活動を強いられてきたといっても過言ではありません。こういった環境下でも怯むことなく、有機農業の技術の発達と普及を国内はもとより、韓国・中国を含む国外にも活動範囲を広げ、面としての普及を図ってきたのが大きな特徴といえます。
- 稲葉光國氏は2020年12月に逝去され、本格的に有機農業を全国展開を試みる「みどりの食料システム戦略」に関わることができなかったことは、無念であったろうと思われます。
- 年々、世界的にも有機稲作への関心が高まり、民間稲作研究所の活動の重要性が増しております。稲葉光國氏が遺された『いのち育む有機稲作』、『イネ・麦・大豆・油脂作物の輪作による省力・低コストの循環型有機稲作』を基盤とし、研究所が掲げる理念『地域循環型有機農業ですべてのいのちと共生する地域社会の実現』に向け、より一層着実に取り組みを積み重ねてまいります。
- そんな理念の実現に向け、稲葉光國氏の身を粉にした奮闘を称え、その名を永く記憶に留めるため、研究所の取り組みに多大なる貢献をされた方々を顕彰する『稲葉賞』として創設します。
田坂興亜氏を推薦する理由
田坂興亜氏は、元民稲研理事、元アジア学院校長、元国際基督教大学教授です。推薦理由は以下のとおりです。
1. 環境保全に関わる啓発活動
- 有機リンの化学的研究を専門とされ、有機塩素化合物PCB、農業用殺虫剤として大量に使われたDDT等の人体への影響を研究されました。
- 日本やアジアにおける残留農薬問題、農薬規制に長く活躍され、放射性物質問題にも警鐘を鳴らして来られました。
- 田坂氏の研究スタンスと広範な社会活動が、稲葉氏の目指す有機農業と共通項がたくさんあり、長年にわたり本研究所との関係を深めてこられました。
- 公開シンポは無論のこと、少人数の研修会においても、田坂氏を講師として農薬や放射性物質の危険性を説く学習会を何度も開催されました。
2. 国際交流事業
- 当研究所では、2016年よりブータン王国農業省の依頼を受け、JICA筑波の草の根支援事業の一環として、「循環型有機農業の普及による地域創生事業」を3年間実施しました。
- ブータンで開催されたIFOAMの国際会議がきっかけとなり、田坂氏が民間稲作研究所をブータン王国農業省に推薦して下さいました。
- 事業推進のため、田坂氏は通訳として、また現地で活躍するアジア学院の卒業生へのコンタクトとして欠かせない存在であり、事業の円滑な実施と成功に多大なる貢献を賜りました。
有機農業公開シンポジウム開催される
2月14日(土)~15日(日)、当研究所の最大行事である公開シンポジウムが、宇都宮市のコンセーレにおいて開催されました。参加者は延べ150名でほぼ空席がない状況でした。
今年度のテーマは「持続的農業の推進と地域社会の展開方向」で、有機農業の抱える社会経済的および技術的な問題とその解決策について、参加者とともに議論を行いました。各報告の概要は以下のとおりです。
第1部(14日)「みどりの食料システム戦略の目標達成への推進方策」
2021年に策定された「みどり戦略」について、有機農業を軸として日本農業を持続可能な方向に転換するための方策を考える。
基調講演
安岡澄人(元農水省)「みどりの食料システム戦略の推進と有機農業の拡大を考える」
- 今後の拡大方策のモデルとして、すでに有機面積が25%を超えているオーストリアの取り組みを提示する。
- 小規模家族複合経営が一般的、政府の有機農業への積極的な支援、大手スーパーの有機食品の販売促進などが大きな特徴である。
現地報告
- 松本嗣夫(宮崎県)「宮崎市みどり農業推進協議会」
推進母体として市内の有機農家を品目横断的にピックアップし、推進協議会を立ち上げる。国内外を含めた先進地視察、マルシェへの出店などで点から面への活動を目指す。 - 服部晃(岐阜県)「みどり食料システム戦略について」
県農林事務所に有機農業担当者と有機農業アドバイザーが配置される。3市町でオーガニックビレッジを宣言、2市が準備中。 - 宮田兼任(長野県)「有機稲作26年の今日」
昨今の地域の動きとして、有機農業を志向する新規就農者11名で有機農法研究会を発足、関係機関も含めて技術向上を図っている。企業の農業参入が懸念される中、小回りの利く家族農業を中心にみどり戦略を活用して、地域の活性化を図る。 - 茨城県常陸大宮市「常陸大宮市の有機農業の推進の取組について」
コンセプト=子どもたちに最高の給食を届けたい。推進の背景=学校給食のオーガニック化、自然環境への負荷低減等。推進方策=牽引者の育成、有機水田の集約化、複数チャネルの販路、規模に応じた生産形態、関係機関(特にJA)との連携等。
第2部(15日)「稲作における有機的害虫対策の展望」
急激に発生し甚大な被害をもたらしているイネカメムシを素材として、農薬に依らない害虫制御の可能性を展望する。
基調報告
- 日鷹一雅(元愛媛大学)「有機農業におけるエコロジカルな総合的害虫管理に向けて」
有機農業における害虫管理の在り方を、40有余年にわたる農生態学の視点から、次の点を強調する。
- 景観の時・空間の重視=圃場・集落・地域空間を総合的に診る。
- 害虫・天敵・ただの虫、食農に多様性あり。種の多様性、農生物多様性。
- 参加行動型研究の勧め、ステークホルダーの多様性で科学を。
- 斉藤光明・古谷愛子(オリザネット)「イネカメムシの動向2025」
埼玉県・栃木県南部における昨年のイネカメムシの被害状況とその特徴を報告する。従来の知見では、イネカメムシは越冬場所から直接イネに飛び込むとされていたが、イネ科の雑草を経由する行動があることを明らかにした。防除を従来の知見で実施するのではなく、綿密な「観察」に基づく防除法を強調。
現地報告
五十畑匠(民間稲作研究所)「猛暑による害虫被害」
- 栃木県南部で水稲7.5ha、大豆及び麦各450aを栽培。
- 2017年まで絶滅危惧種であったイネカメムシが発生。不稔により大頭の垂れない稲穂となり、0.5俵/10aという経験のない収量。
- 昨年は消石灰・酢、ミントの畔播種など、いろいろな試みをしたがすべて効果なし。
- 対策として分げつの早期確保、ていねいな秋耕の励行などを考慮。
(齋藤一冶 記)