守る会・研究所便り2026年6月号

2026.6 日本の稲作を守る会 NPO法人民間稲作研究所便り

6月のお送りする有機栽培米は次の生産者です。

有機白米・玄米にじのきらめき アグロエコロジー菅谷英位さん(栃木県芳賀町)

次回は7月4日(土)配送予定です。

御都合の悪い方ご連絡くだされば対応いたします。

「田植をしない稲作」(節水型乾田直播稲作)の問題点

近年、大規模な慣行稲作農家では「節水型乾田直播」稲作が脚光を浴びています。節水型乾田直播稲作とは、乾田状態の水田に直接に種籾を播種し、発芽後も湛水せずに稲を栽培する農法です。この農法は「田植え」を行わず、したがって「育苗」の手間も労力も不要となり、さらに水田に水を張らずに栽培することによって節水となり、面倒な水管理もないという夢のような農法と謳われています。これで日本の米作りも超低コストで国際競争力を得ることができるというのです。これぞ窮地にある日本の稲作を救う切り札であるかのように政府も鳴り物入りで旗を振っています。本当にそうでしょうか。この農法には、非常に重大な多くの問題があるのです。

第一の問題-「育苗」と「田植え」の省略

第一の問題は「育苗」と「田植え」の省略である「直播」にあります。実際に水田に直に種を撒いてみると、たちまち雑草に覆われてしまいます。「育苗」と「田植え」の目的は、雑草予防のためであり、とりわけ日本のような温暖で湿潤な地域では必須の技術です。日本では弥生時代から「育苗」と「田植え」が始まり、田植えに適した「水田」と「水路」が整備されます。以来、現代に至るまで営々と持続してきた「田植え稲作」が日本人の食糧を支えて来たのです。育苗の重要性は「苗半作」「苗八分作」などの言葉で先人が伝えています。

第二の問題-「農薬」と「肥料」の多投

第二の問題は、「農薬」と「肥料」の多投です。「直播」で雑草を防ぐためには、除草剤の大量投入で行うことになります。通常の慣行栽培では除草剤1回ですが、「直播」では3回以上投入しなければなりません。まして無農薬の有機栽培など不可能です。さらに「乾田」による養分流失で肥料も多投することになります。

第三の問題-水田に水を溜めない「乾田」

第三の問題は、水田に水を溜めない「乾田」です。毎年毎年、同じ水田で稲が育つのは水田に水を湛えることによる連作障害の抑制効果のお陰です。さらに、水田による貯水効果は急峻な日本列島の土壌流失を防ぎ、豊かな地下水を生み出しています。「乾田」は「節水」ではなく「失水」です。

第四の問題-生物の生息環境の破壊

第四に、これが節水型乾田直播稲作の最大の問題ですが、生物の生息環境を破壊し、生物の多様性どころか生物を絶滅に追い込む農法となってしまうことです。稲の生育期間に湛水し、人工ではあっても湿地となる水田稲作が多くの生物を養い、その生物たちと共生しながら米の生産を行ってきたことは、水田農業の最も誇るべき点であると思います。プランクトンから水生昆虫、魚類、両生類、鳥類に至るまで水田の恵みを享受しています。そして、私たち人間もまたそれらの生き物たちと同じに水田の恵みで生きているのです。ただ単に「安い米を作る」ために、田んぼで暮らす多くの生き物たちから水を奪わないでください!

(文責 舘野廣幸)

【季節の話題】イチゴの季語から学べること

本来の収穫時期

前月号でイチゴの季語はいつ?のクイズを出しましたが、答えは夏(正確に言えば初夏)です。しかし、現状のイチゴの出回りをみて収穫最盛期は冬であって、とても夏とは思いもつきません。栃木農試で長年イチゴの研究に従事してきた稲葉幸雄氏の論文に、「イチゴは本来であれば、5月下旬から7月にかけてほんのわずかな期間にだけ収穫される初夏の果物である」と書いてあります。この論文で着目してほしいのは「本来であれば」で、現在のイチゴは本来の姿ではないということになります。アメリカの先住民では、各月の満月に刈り、魚、収穫など生活(生産)に密着した名前を付けました。9月のハーベスト・ムーンは有名です。6月はストロベリー・ムーンでアメリカにおいても本来の収穫時期なのです。

収穫時期の前進化

現在のイチゴの収穫は11月上旬から始まりますので、半年以上も前進化したことになります。出荷時期が早まるほど単価が高くなるというのが最大の要因で、そのために、休眠が浅く大玉で甘い品種の育成、花芽分化促進のために苗を冷蔵庫に入れたり、戦場ヶ原へ運んだり、研究者と生産者の努力で今日のとちぎのイチゴがあるわけです。

イチゴ本来の味を無視(?)

とちぎのイチゴの主力品種がダナーであった1975年ごろの2~3月、お茶うけにイチゴがよく出されました。そこには砂糖と牛乳、そして平らなスプーンがありました。スプーンでつぶして砂糖と牛乳をかけてたべるのが一般的でした。それはダナーがとても酸っぱいからで、酸っぱいのはやはり夏のほうが口に合います。いずれにしましても、砂糖や牛乳をかけて食べること、イチゴに対して大変失礼であったと言えないでしょうか。

「本来」の再考を

私たち人間は英知と科学の力を駆使して、多くのものを私たちの使い勝手に変えてきました。そのお陰で近代的な(?)生活を享受できるようになりました。一方で、自然との結びつきが矮小化され、いろいろな問題が生じてきています。例えば、イチゴは温室という隔離された環境で栽培するため、ミツバチを人為的に温室に投入しないと授粉はできません。また、糖度の高い果樹類には虫たちだってその美味しさに食べに来ます、すると、何度も薬剤を散布しなければならない、ということになるわけです。地球環境問題の重要性が叫ばれている今日、立ち止まって「本来」を考える必要があると思います。

【原点に立ち返って】「身土不二」を再考する

身土不二を表した画像

「身土不二」は日本の稲作を守る会が拠り所とする極めて重要なキーワードで、この4文字が当会のホームページに大きく描かれています。話は大きく変わって、最近、健康志向が叫ばれる時代にあえて高カロリー、高糖質、高脂質のものを楽しむ「ギルティフード」がブームになり、市場が急成長しているとのこと。不健康を助長するような食品が市場を席巻するかのような状況は極めて由々しきであると言わざるを得ません。

明治時代の後半に活躍した軍医の石塚左玄は、日本の風土に根ざした身土不二の食事の大切さを説きました。それは、石塚の赴任先の現地の長寿な人たちが、そこの風土にあった食を何代にもわたって食べ続けてきたことを、知るようになったことにあるようです。石塚の身土不二を以下の5項目に集約しました(長谷山敏郎『食が体をつくる』2015)。これらの具体的なお話は来月号にて。

  1. 命は食にあり:病気の原因は食物にあるので、百の薬を飲むより食生活を見直す
  2. 穀物を食べる:人間に最も適した食物は穀類であり、米を主に穀物を食べれば健康になる
  3. 郷土のものを食べる:生まれ育った土地で採れた、旬の産物を食べることが健康によい
  4. 丸ごと食べる:野菜は皮をむかず、米の玄米のままで、魚は内臓まで食べると健康になる
  5. バランスよく食べる:主食をきちんと摂り、副食をバランスよく食べると栄養になる

(文責 齋藤一治)